DJ回顧録(#009)選曲ノート

1980年代、駆け出しや見習いのDJの多くは選曲ノートを付けるのが通例でした。上級DJのかけた曲の並びを勉強するのです。

今は(Shazam等)スマホの音楽認識アプリで検索してそのままプレイリストに残している人を見かけます。手書きで選曲ノートを付けている頃は、書くという作業が曲名やアーティストを覚えるのに大変役に立ちました。

書かなくなってからはなかなか覚えられないですね。単に歳を重ねて記憶力が低下したにすぎないというご指摘を頂きそうですが(曲のタイトルやアーティスト名を覚えていないと)PCでプレイすることが主になった現在では、曲を検索することさえ出来ません。そうなると、DJブースに立っているただのおやぢです。

ちなみに(アナログ)レコードの頃は、曲のタイトルやアーティスト名を覚えていなくてもレコード・ジャケットの絵柄を覚えていれば素早くレコードを選んでターンテーブルに乗せることが出来ました。

さて、1980年代のある日、師匠から選曲ノートを見せるように言われました。すると、ただ曲順が記してあるだけだと指摘を受けました。今までに色んなDJの選曲ノートを見たことがありますが、曲順が記してあるだけの選曲ノートが殆どです。

師匠から以下の項目を選曲ノートに書き込むように指導を受けました。

・何時にかかったか?
・曲調はどう変わったか?
・ビートの種類はどう変わったか?
・何番目のブレイク(間奏)でつないだか?
・何拍でつないだか?
・トークは入ったか?
・フロアは何人増えて何人減ったか?
・どの種の人がどんなリアクションしたか?
・その他、諸々…

そういう角度からDJの選曲を観るようになり、私にとって選曲を勉強する基礎となりました。師匠からアドバイスを受けた項目は(テーマを持ったライヴとして)フロア・コントロールが出来るようになる鍵です。肝です。ポイントです。醍醐味にも繋がる視点でした。

以来(選曲ノートこそ持ち歩きませんでしたが)多くの箱の多くのDJを見て廻りました。

実に楽しい体験でした。いつも同じ選曲をするDJ、上級DJの曲順を真似てフロアを空っぽにするDJ、自分のカラーに徐々に引き込むDJ、ヒット曲の次に必ず自分の推し曲をぶっ込むDJ、しゃべりで選曲を加速させるDJ、様々なDJがプレイしていました。

群を抜いていたのは、私が今もお世話になっている「DJ SOUSHI」氏で、素人(一般)を踊らせながら玄人(プロ)をくすぐる選曲にはいつも感心しました。曲名がしりとりゲームだったり、プロデューサー括りだったり、プッシュ曲を目立たせたり、遊び心満載で様々なライヴを楽しませて頂きました。中でも私の目前に居た派手な女子の体が激しく震えて目から大粒の涙がボロボロと溢れ出したあの光景は今でも覚えています。

今までに多くのDJの選曲ノートを見たことがありますが、曲順が記してあるだけの選曲ノートが殆どでした。師匠の教えを全てのDJが実行していれば、AIに項目(ビッグデータ)を学習させて… いや、そんなことは押し売りの大手企業に任せて、我々は自分の中に蓄積しましょう。我々はDJの醍醐味を楽しみましょう。

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